青い瓶の話 3.
 
 
 
■ 昔、甘木君と電話で話していて、耳元でグラスの音がする。
 なんだよそれ、いいグラスだな、ホヤかササキか。
 ちっちっち。こーいちさん、バカラですよ。
 バカラだって、てめ、十年はええんだよ。
 
 
 
■ などと言うことをノベあっていたのがほぼ十年前である。
 私もあぶく銭でバカラのグラスを買ったが、酔っ払って足に落として痛かった。
 そしていつの間にか、日々の泡および屈折の中で尖った破片に変わっていった。
 あたかも青春後期の憧れのようである。
 捨てきれず、その破片をダンヒルの箱に閉まっておいたこともある。
 
 
 
■ 十年の後、甘木君は出世して、いつでもバカラを買える立場になった。
 私にしても、棚に飾ろうと思えばできないこともない。
 時間の推移というものは大変なものなのだが、それで飲む酒はというと、なんとなく普通のものがいいような気がする。