ずみくろんの夜。
 
 
 
■ 友人にクラシックカメラに凝っていた男がいた。
 奴の仕事場にゆくと、うず高く詰まれた資料の影で、蛇腹式のカメラに触りながら電話をかけていた。
 お、これはなになにだな。と、ひとしきり話が弾む。
 で、写るか。
 たまにな。
 
 
 
■ 夜になって一席を設け、そこでもカメラの話である。
「ライカのレンズって、どうしてこう、そそる名前がついているんだろうな」
「ユンカースの爆撃機みたいなもんじゃないか」
「力を入れてレンズの名を呼ぶと、こう、岩波文庫を読み終わったみたいな気がしないか」
「しない」
「おまえは昔からそういう奴だったよ」
 そこからこんどはコンタックスの話に飛ぶ。