国際埠頭。
 
 
 
■ バンド、というのは運河のことを意味する。
 我が国ハードボイルド・団塊世代作品の傑作「事件屋稼業」(原作:関川夏央・絵師:谷口ジロー)には、くりかえし本牧界隈の濁ったクリークが登場する。
 水は重い。
 午後の光の下では、鉛色の表に時折虹色の帯が入ってもいた。
 
    序
 
 
 
 本牧の外れの引込線から右に曲がるとその先は行き止まりだ。
 背の高いコンクリの壁をよじ登ると、黒く粘る海が見える。
 海とはいっても実感はない。薄い雨に雲が浮かんでいた。
 壁の横にぽつりぽつりと車が駐まり、車高を落とした白いセダンのボンネットの上に若い男が座っている。光るものを持っていて、近づくと、釣り竿を照らす電灯のようだ。伸びかかったパーマの頭を斜めに、バンパーに右足をのせ、考える格好で竿の先を照らしている。
 標識が半分取れかかっていて、「国際埠頭」と書いてある。
 
 
 
■「夜の魚」一部の書き出しである。
「夜の魚」は、当初緑坂として始まった。
 これはそのまま小説の出だしではないかと指摘するヒネタ読者がいて、そういうものかと暫く寝かせていた。
 プロットなど特別用意することもなく、書き始めたのが第一部である。
 いずれにしても、港とか引き込み線とか、その頃好きだった風景が背後にはある。