十九 対岸
 
 
 
■ 私たちはホテルに戻った。
 イブの東京湾は思いの他静かだった。軽くシャワーを浴び、酔いを醒ます。石鹸で頭を洗うと、キシキシして何本も毛が抜けた。
「どうするの」
 葉子はシーツを被っている。
「まあ、いいんじゃないか」
 私は煙草を吸った。決まりみたいなものだ。
 寝よう、と直裁に言ってあれこれ理屈をつける女を私は信用しない。
 若い女ならともかく、一定の経験を積んだ女性がもったいぶる姿をみると、上着を抱え取ってかえすことにしている。かといって、すべてを解放してゆくのもいかがなもので、性の底には明らかな暗さも怖さもある。避ける訳にはゆかない。その上で自分と相手の欲望を認め、素直に受け入れる姿勢を示す女性を好ましいと思っている。葉子は直裁に反応した。
 わかったわ、何処、と芝浦で答えた。ホテルに戻ることにしたのだ。
「マゾっ気があることはわかった。今日は普通にゆこう」
 私はシーツに潜り込んだ。半ば眼が醒めたような姿勢のまま、形の上では外側に終わることにした。葉子は唇を使わなかった。そうしようという気配を押しとどめた。背中を抱いている。葉子は足首を絡めている。