東京場末気分 フォー。
 
 
 
■ フィリップ・マーロウが普段何処で買い物をしていたのか、確かチャンドラーは書いていなかった。
「チャンドラー人物辞典」を見ても、酒とスクランブルの卵については載っていたが、スーパーというか市場については記載されていなかったような気がする。
 アクターズ・スタジオで学んだポール・ニューマンは、ロスマグの原作になる「動く標的」の中でコーヒーを入れる。
 一度使ったものを、流しから取り出し、まだ色が出るかなというような按配である。
 ニューマンは結構な反逆児で、ヒッチコックの映画でも監督とかなりぶつかったという話だった。
 
 
 
■ ダウンタウンにゆけば全て物価が安い、というのは嘘である。
 安いのはせいぜいが青物というか野菜などが少し、一般に売られている日用品などはほぼ同じか、やや高いくらいになっている。
 一例が酒とかコーヒー豆であろうか。
 安定して安いのは有楽町にある大手量販店で、ここは夕方になると缶ビールひとつだけを買う男性や妙齢後半などがいて、さて何処で飲むのだろうと不思議だった。
 丸の内OLだって立って飲む。
 
 
 
■この肉、変色しているが、まだ売っている訳だな、と思いながら商店街を歩く。
 六本木ヒルズが出来たばかりの頃、近くにある24時間スーパーは高級品ばかりを売っていた。深夜そこへゆき、やや高いレタスを買った覚えがある。
 一年ほど経つと、そうもいっていられなくなって、母体である大手スーパーの日常的なものが顔を出す。フライパンが安い。私はふたつ買う。
 そこには、外で今買ったものを食べることができるスペースもあるのだが、あるとき、真夜中に半額になった弁当を食べているカップルがいて、もう冬だぜと驚いた。
 が、銀座のコンビニの前にはカップ・ラーメンをすする10代の少女たちがいるのだから、どうということもない。