ジタン。
 
 
 
■ 70年代の終わりだったと思うが、フランスの二枚目俳優がジプシーを題材にした映画を作った。
 当時日本で人気のあった甘いマスクの俳優である。
 彼は育ちが悪く、「太陽がいっぱい」や、ジャン・ギャバンと競演した作品などは、彼が伸し上がる過程でのジゴロ的な部分を旨く顕して、今眺めるとまた別のコクがある。
 フランスには犯罪者を英雄として扱う伝統があるらしく、映画の中で彼もまたジプシーの群れに匿われる。
 黒い瞳の女がいて、それがそこでの妻であった。
 暫く前、私はジプシーの歴史について調べたことがあったのだが、つまりそれは正当なるものから弾かれた宗教的存在でもあって、ヨーロッパの影のような集団である。
 文化とは概ね、境界からくるものだと言ったのは誰だったか。
 〆切前の仕事場で、すこし離れたところにあるモニターに、彼の皮ジャケットが映っている。