まだこの坂をのぼらなければならない 3.
 
 
 
■ おおむね、次の段階に移行する手前というのは空気が粘る。
 平行線を暫く続け、数をこなすことによって質的な変化が起きるのを待つ。
 簡単に言えば、しくじったネガとポジの本数によって写真の腕が変わるようなものだが、数をこなせばいいというものでもないのは、男女の間柄にも似ていた。
 
 
 
■ 昔、開高健さんと吉行さんの対談で、開高さんが中南米の男たちの話をする。
 まだ若いのに、経験が三桁を超えているということに驚く。
 吉行さんは軽くいなし「足踏みをしない訳だね」という。
 つまりはひとりの相手のところで、イチニと足踏みをしていることも大人の厄介には大事なことなんだという指摘である。
 開高さん驚く。ナルホドなあ。
 オイチニの薬屋さん、というのが戦前にはあって、大体は退役軍人が軍服を着て訪問販売をしていたという話もあるが、それとは関係のないお話。