花より団子。
 
 
 
■ という随筆を正宗白鳥氏が書いていて、あまりに桜が奇麗だから、思わずむしゃむしゃと食べてしまったとある。
 嘘か誠か、どちらでもいいのだが、二部咲きか三部咲きくらいの桜を下から見上げていると、満開の頃よりは好ましいような気もする。
 
 
 
■ 酒も、一杯目のそれには独特の味がある。
 よく洗ったグラスにウイスキイを垂らし、そっと口を付ける時、なるほどこういうものであったのかと、何時もすこしだけ驚く。
 酔いが廻ると、味はわからなくなる。
 つまみを多用すると、つまみの味がしてくる。
 グラスは少しづつ曇り、灰皿は溢れ、酒というよりは傍にいるなにか弾力のあるものに関心が向いてくる。
 花より団子か。
 人間は花ばかりでは生きてゆけない。
 
 
 
■ 当たり前のことを書くものではない。
 前の段落の一番最後は、削除すべきである。
 それは野暮ということで、一杯目の酒が始めて会う女性だとするならば、廻った酔いが、馴染んだものだと言うことになるのかしら。
 しかし銘柄という問題もあって、一本何万円もするような酒をバーで頼むのは、人の金だからどうでもいいが、普段呑み付けているものが一番旨いのではないかとも時々思う。
 スタンダードの裡から、自分の好みを捜す訳か。
 女もスタンダードに限る。
 と、私は何を言っているのだろう。
 分からないが、桜の花がきれいだよ。
 
 
○昔坂 vol 11
93年4月