そこにいるだけのあいだ 3.
 
 
 
■ 仕事場からは月がよくみえる。
 カーテンを半分ほどはしていないので、空を眺めて暮らしているようなものだ。
 メールを何本か書き、画像を選択しなおす。
 作業途中でエラーがみつかり、破棄したDVD10枚ほどをカッターで切る。
 やりなおしなのだ。
 
 
 
■ デザイナやコピーライターなどという仕事は、あるいは写真家もそうだけれども、一見派手に見られやすい。
 だが実際はきわめて地味な日常であって、「日々すれすれ」というべきロクデモナイ夜と昼を過ごしている。
 依頼された仕事であっても作品でも、胸の中に小さな針のようなものがあって、それが細かく揺れている。
 その揺れをいかに飼いならすかに神経を尖らす。
 例えば風呂に入ることで、流れが停まってしまう。溜まっている水瓶がこぼれる。
 だから終わるまでは入らない。
 ここで笑う緑坂の読者は、三分の一程度はいるのではないか。
 あなたにも覚えがあるでしょう。
 せめて床に眠るのはやめよう。