暗闇坂 3.
■ 夜の散歩をこころがけた。
白金台から広尾まで、有栖川公園に住むカモは暗くなると石垣の上に寝ていた。
猫の尻は太かった。
時々、中年女性にガンを飛ばされるのだが、それはいたしかたのないことである。
■ 元麻布界隈は、静かな住宅街が続く。
坂の上と下とではこれほど風情が違うものか、と驚くのが世の常だが、例えば横浜の山手から坂道を下ってゆくときなどもそのようである。洗濯干場が見えるからなのかも知れない。
昔、文学館の隣には車が停められて、夜中に煙草を吹かしにいったことがあったが、今はそうもゆかなくなっている。
■ 元麻布の教会の脇を通ってゆくと、いわゆるタワー型の高級マンションが建っている。ここはホテルのようにして使うところなのだけれども、その前の植え込みで一休みをした。
ボトルの水を飲んだりする。
東京は梅雨になりかかる手前、低いところにすこし欠けた月が赤かった。
タワーを見上げていると、蛍光灯と白熱灯の灯りが混在している。おかしな生活感が滲んでいて、普段食べているものは誰もがそう変りはないのだろうと思われた。
昨年秋頃、この奥の不動産を夜中に見にきて、花束を左手に持った若い女性が、すこし踊るように歩いているのを見かけた。肩を出したまま、ふくらはぎが綺麗だった。
その先、古い狐の尾のように分岐した道があり、その中のひとつが暗闇坂である。街灯の届かぬところに、木の案内が立っている。
かなり急な勾配と、片方が石垣。
まだ夜は遅くなかったので、一組の老夫婦とすれ違った。下ると駐車場があり、馴染んだ麻布十番温泉の看板もみえる。