沈む寺。
 
 
 
■ 確かそのような題名の曲があった。
 ドビッシーだったか、覚えていない。
 夕方になると、ピアノの音が聴こえることがある。近くに住むひとが薄く窓を開けているからだが、同じ曲を何度も何度もくりかえしている。
 私はといえば、あれとこれがまだだったと思いながら、壊れたソファに横になり、カーテンの向こうへの空を眺めている。
 髭が伸びた。
 ピアノはたどたどしい。
 
 
 
■ お釈迦様は自分だけよくなろうとしたカンダダのこころをいましめ。
 とかいう台詞を覚えている。うろ覚えである。
「蜘蛛の糸」の中の一節だったろうか。
 つげ義春さんの「リアリズムの宿」の中にも使われていた。
 北の町は、既に雪だ。
 若い夫婦がやっている土産物屋があって、地場の干物などを売っていた。
 明るい色の防寒具を着た奥さんが店番をしている。
 少し太った眼鏡をかけたご主人が、その町の青年団のまとめ役をしているらしい。
 町の便りが、店先に置いてあった。