「緑色の坂の道」vol.7054

 
    水が立っている。
 
 
 
■ 六月になるとそうだ。
 洗ったばかりの指の先や欠けた奥歯の触りから、おかしなことを思い出す。
 あれは何時だったか、こんな風に走っていて誰かを迎えにいった。
 視ていたものは多分自分で、モノレールの下の運河が黒く光っていた。
 ちらちら横眼で眺めながら、このオイルも山を過ぎたなと感じている。
 

「緑色の坂の道」vol.7053

 
    雨のまえの満月。
 
 
 
■ トラックに囲まれた渋滞だった。
 この時間にと訝しいが、月末の補修工事が続いている。
 私は中森明菜さんの曲を真面目に聴いていた。低音から震えていく流れがいい。
 富士や青森のナンバーに囲まれて、長距離の彼らは何の音を流しているのか、最近はサイドのマーカーも輝度の高いLEDが主流である。
 空は曇り、薄い雨がフロントガラスに零れる。
 国文を出た彼が明菜のファンで、青山二郎と小林秀雄、それにまつわる女のことを熱心に語っていたことを覚えている。
 

「緑色の坂の道」vol.7052

 
    待っている。
 
 
 
■ 先日処分した時に、チャンドラーの文庫も何冊か入っていた。
 今読み返すとあちこちが痒くなるような時もあって、この恥ずかしさというのは何処からくるのかわからない。
 昼間の厄介であれなんであれ、しゃにむに突っ込んでいく時期が過ぎると、出方をみていたり効果があるだろう時期まで寝かせることを覚える。
 待っているわけだが、その時間をどうやり過ごすかでいつも少しだけ困っている。
 それはね、修行が足りないのよ。
 常に正しい声が耳元を横切る。
 

「緑色の坂の道」vol.7051

 
    スペインの石。
 
 
 
■ 気に入ったものを色違いで買うということを時々やる。
 化学繊維が混ざるようになってからのバラクータのG4がそうで、そのうちミストと呼ばれる白いものは洗濯屋がしくじって妙に柔らかくなってしまった。
 それはそれで、腕まくりしやすいので羽織っている。裏地が派手だから、ある意味で結構あざとい。
 

「緑色の坂の道」vol.7050

 
    ブチルテープ。
 
 
 
■ スロープを赤い車が昇っていって、小型のアルファである。
 段付きかなと思って眺めると黒い幌を被っていた。4座。
 ジュリアのGTCと知るのは数日経ってからだが、乾いた、どことなく情けない排気音がいい感じだった。
 この周辺、好きなひとが本当に多い。
 何時だったか橋を渡ったところにある伊太利車のディーラーへ行って小物を眺めていると、奥のガレージに案内された。
 そこにはレストア中のランチアか何かが停まっていて、唸ったものだけれども、先ほどのGTCもそこにあったものだったかも知れない。
 

「緑色の坂の道」vol.7049

 
    モッタイナイ。
 
 
 
■ 戻ってきてから大分本を捨てた。
 これは残しておくべきかと迷うもの、躊躇う時には捨てる方向に今回は傾いていた。
 服などもそうである。
 椅子の上に胡坐をかいてディスプレイに向かって、気に入っている靴下の柄なんだけれども一部薄くなっている。要は穴があきそうな訳で、そのまま履いていても特別問題はないのだが、ある晴れた日の午後であると捨てる方向に傾く。
 

「緑色の坂の道」vol.7048

 
    Commentarii de Bello Gallico.
 
 
 
■ 戦争に関する本を続けて読んでいた。
「Bringing Mulligan Home: The Other Side of the Good War」邦題:日本兵を殺した父:デール・マハリッジ著:藤井留美訳:原書房刊
「Thank You for Your Service」邦題:帰還兵はなぜ自殺するのか:デイヴィット・フィンケル著:古谷美登里訳:亜紀書房刊
「The Good Soldiers」邦題:兵士は戦場で何を見たのか:デイヴィット・フィンケル著:古谷美登里訳:亜紀書房刊
「アメリカと戦争 意図せざる結果の歴史」ケネス・J・ヘイガン/イアン・J・ビッカートン著:高田馨里訳:大月書店刊
「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」クリス・カイル著:大槻敦子訳:原書房刊
 この他にも何冊かあるが、写していて疲れたのでやめにする。
 

「緑色の坂の道」vol.7047

 
    花灯り 2.
 
 
 
■ イエローのフォグかスポットを全開にして、高速ではない国道を西や東に向かう。
 たいていは一人で、目的があるようなないような。
 必ず雨になるのだが、手入れされた車ならばワイパーのゴムはまだ新しい。
 個人的な好みだが、フィクストヘッドクーペの姿が思い出される。
 XK140や150、EタイプのそれやMGのGT、エランやS800にもそういうものはあった。囲まれた猫背の部屋。
 排気量はともかく、車の車種もそこそこに、濡れた路面をグリップを確かめながら限界の70-80パーセントくらいで飛ばすとき、音楽は聞こえているのかそうでないのか、ラジオは消していたような記憶がある。
 

「緑色の坂の道」vol.7046

 
    花灯り。
 
 
 
■ 桜の頃、街はなんとなく浮ついていて埃っぽい。
 満開かと思えば雨が降り、風になって、一旦お預けをくらう。
 翌日、待ちかねたように人が出て、一眼のレンズを向けている男性が何人もいる。最近は妙齢もである。
 私は恥ずかしくて撮れないでいた。何故なのか分からない。
 

「緑色の坂の道」vol.7045

 
    エストニアの花。
 
 
 
■ しばらく前、旧い車の部品が届いた。
 なんのせいか、エストニアからである。これはどこにあるのかと地図を眺めると、あらま、バルト海に面した界隈である。
 ゲッツの「ディア・オールド・ストックホルム」が海の反対側にあった。
 プーシキンという地名も見えたりする。そういう名前の詩人がいたような記憶もあるが、どっとはらい。