るんたた

 
    るんたた。
 
 
 
■ と、ひらがなで書くと呆けた感じがする。
 ひとのルンタタはどうでもいいが、眺めていると、ある感じがある。
「ぼくだけは例外だ」
「今度だけはチガウ」
 と、恋のはじめにはそう思う。
 

背中

 
    背中。
 
 
 
■ 女性が男性の後姿に惚れたり呆れたりするように、女性の背中というのは、不思議な懐かしさを持っている。
 幼い部分が滲んでいるような錯覚を覚える。
 背中には生活がある。
 遠い日からの記憶がある。
 
 
 
■ 背後から背中に手を当てていると、子供の頃が視えてくることもあって、それは私自身の記憶でもあり、あずかり知らないその女性の生活であったりもする。
 暫くはそうしていても良いと思う。
 

明らかに共犯者

 
    明らかに共犯者。
 
 
 
■ 女が逃げる。
 とりあえず男が追う。
 離れると、時々振り返る。
 ニッコリ笑ったりして、脚を組む。
 
 
 
■ そろそろいいかな。
 と言った按配で女が倒れる。
 ゼイゼイ。
 と、男が辿りつく。
 
 
 
■「わたしは嫌だって言ったのに、あなたが無理矢理そうしたのよ」
「みんな貴方のせいだかんね」
 ま、そういうことになっているんですね、これが。
 

無月

 
    無月。
 
 
 
■ 秋は苛酷である。
 日は短く、外に出るとすでにしてネオンが灯っている。
 雑踏に紛れ思い出すのは誰かの待つ、あるいは待たない自らの部屋である。
 何がカナシクてこのようなことを続けているのか。
 生活とはなんなのか。
 本質的なことを考えると躯によくない。
 窓を開けると、月はなかった。
 港の方角の、高層ホテルの大きな窓に、オレンジ色の明かりが燈っている。
 

壁を向く

 
    壁を向く。
 
 
 
■ 恋愛関係って、決して知的なものではないと思う。
 
 と、書いて、もうすこしバカな話をしようと反省した。
 煮詰まると、いろいろ不都合なことがあって、そうしていると相手が壁を向いてしまう。
 かなりコワイことであって、その恐ろしさは男性でないと骨身に染みない。
 

十六夜

 
    十六夜。
 
 
 
■ いさよい、と読む。名月の翌夜の月を言う。満月よりも出がすこし遅れるので、ためらうの意「猶予」(いさよふ)を当てる。
 
 
 
■ 電話をしようと思いながら何時も果たさない。
 余計な心配を掛けるかも知れないといぶかるのが一番の理由だ。
 とりとめのない話をしながら、相手の思惑を探るのは楽しい。
 
 
 
■ 秋の燈にはひとなつかしさがある。
 坂を昇りながら、見上げると遠いマンションの窓に人影が見えた。
 それはすぐに消えたのだが、長いスカートを履いていたように思えた。
 宵闇の長さと暗さをおもう心には、夜ごとに月を待ち月をめでた心持が込められている。
 

泳ぎながら

 
    泳ぎながら。
 
 
 
■ クレーの絵の題名に、魚に関するものがいくつかあって、「笑う魚」というのもそうだったと記憶している。
 こいつは何を考えながら泳いでいたのかと不思議がってみるのだが、いずれにしてもあまり意味はない。
 風呂の中にもぐって、眼をあけてみたら痛かった。
 

秋月

 
    秋月。
 
 
 
■ じたじたと酒を嘗めていた。
 しのびよる退廃が秋の夜にふさわしい。
 昼間はともかく、夜になって傾かない大人というのを私は信用しない。
 

鶏頭

 
    鶏頭。
 
 
 
■ 植え込みのところに、赤い鶏頭が咲いていた。
 黄色のものもあるというけれども、近頃見かけない。
 子どもが走っていった。
 走る子どもを見ていると、懐かしいような気がする。
 

大地の恵

 
    大地の恵。
 
 
 
■ レンガの駅の一階にビャ・ホールがあった。
 入ってみると、既にして満員でもある。
「それで、食わなかったんですか」
「そうだよ、途中で止めたんだ」
 そういう話が隣で聞こえる。
 
 
 
■ 麻のマダラの服を着た若い女の娘がチケットを売っている。
 やや、元気でもある。
 短いスカートというのは、若ければ太くても良いのだと思える。
 
 
 
■「酔うと駄目だから、朝になるんすよ、俺」
「でも、朝早い時もあるだろう」
 金色の時計をした、三十歳になんなんとする勤め人のようだ。
 ネクタイは、六千円はするだろう。
 朝の女性は、化粧が剥げていないのだろうか。
 黒ビールを嘗めながらそのように思った。