スウィングトップ 5.
 
 
 
■ 本牧から山下公園へ向かう辺りでS30フェアレディの後についた。
 ナンバーが三桁の3だから、元は240である。太いタイヤを履き、車高はそれ程下げてもいず、L型は定番のチューンを施した音をさせている。
 昔元町の宝石屋の前にオレンジのS30が何時も駐まっていて、中華楼の傍にあるバーの店員が転がしていた。あれは微妙に尻が上がっていて、LA辺りの影響である。
 ロケハンで元町を通る度にみかけていたのだが、ここ十年ほどは姿がなく、彼も引退したのかと思っていた。話したことはないが、腕にタトゥーのあるとっぽい男だった。
 

 
■ S30の240はゆっくり流している。
 小雨という程のこともない夜の曇り空に、排気音を誇示しているかのようでもある。
 リアのメッキのバンパーに本来は付随している黒いライダーが欠落していて、部品も簡単に手には入らないのかも知れない。それともわざと空けているのか、後ろに付いているとバンパーの微妙な歪みが私には気になってしまう。
 並ぶと、ドライバーは30代の男性である。彼もこちらに気づいた。
 襟の形がドッグ・イヤーの黒っぽいブルゾンを着ている。スィングトップだ。
 どんな男か知らないが、彼もまた、生活のかなりの部分をこの車の維持に傾けているに違いない。
 
 
 
■ 左折し、ニュウ・グランド裏手に車を停めた。
 中庭からホテルに入り、トイレでコーヒーの紙コップとバナナの皮を捨てた。
 鏡を眺め、こんなところで何をしているのかと思う。念入りに手を洗う。
 まだバーの空いている時間だったが、前に市民団体の妙齢本格派がそこに集っていたことを思い出し、入口近くのカフェに進んだ。
 クラブハウスサンドとやや薄いコーヒーを頼んでぼんやりする。