ツバメ 4.
 
 
 
■ いつだったか湾岸道路の辺りを走っていて、クロモリフレームのロードに乗っている人がいた。
 自転車好きな人が選ぶという国産メーカーのそれである。
 彼は半分は白髪。下にジャージのパンツをまくって履き、年季の入ったザックを背負い、耳に白いイヤホンをしている。
 メットは被っていない。
 

 
■ 平日の湾岸界隈は、大型のトレーラーがコンテナを積み、または空荷でエア・ブレーキを響かせている。
 彼はその隙間をたくましく漕いでいた。もちろん信号はあってなきが如くで、道幅全てを使い、私の車より遥か前方を急いでいた。直線で追いついては神経を使いながら抜くということの繰り返しである。
 危ないという自覚はなさそうである。車たちは彼を避けて通る。関わりたくはないからだ。
 山の男なのかも知れないな。
 私は古い友人の顔を思い出している。
 
 
 
■ 自転車に乗ろうとすると、どうしても避け難いある種の匂いのようなものにぶつかる。唯我独尊に似た自意識のあり方と、まとわり付いてくる生活感。ありていに言えば貧乏臭さに近いもの。
 そうしたものにうんざりしながら、どの世界でも一緒だよなとその面倒くささに気づくのである。