師走の水。
 
 
 
■ あれやこれや出て行かねばならないことが多く、ばてていた。
 昼間の厄介のこともあれば、公私の「わたし」に属することもある。
 公というのがなんなのか、では私とはどこにあるのか、時代やそのひとの立場によって随分と異なるものだろうが、私の生活があって始めて公の部分が出てくるものだろうと思っている。
 
 
 
■ ケーリー・グラントの最後の作品「歩け走るな」(Walk,Don't Run)をちらちらと見返していた。作業をしながらである。
 別にどうということもない映画なのだが、1965年頃の東京が登場する。映画の設定では64年のオリンピックの時、ということになっている。
 タクシーの初乗りが100円。クラウンの4灯だった。
 虎ノ門にあるホテルが登場し、演じているのはどうも二世らしい。
 ここから近いところにある場所の茶室が劇中日本家屋として使われていて、あらま、あそこに並んでいる盆栽はその時はこんな形だったのだなと思った。
 
 
 
■ グラントは成功した英国の実業家という役である。
 英国大使館のいけすかない秘書官と、清楚だけれども実はヤンキーという娘。その娘とオリンピックの競歩の選手として来日したアメリカ青年との間を、半ば月下氷人のように取り持っていく。
 アパートの台所で、グラントがコーヒーを入れるところがおかしい。
 半分踊りながら、自分が主演した映画「シャレード」のテーマ曲の口笛を吹く。
 カップ一杯の水にあんなに粉入れたら、とも思うのだが、当時のアメ車みたいなもんだからそうでもないのだろう。
 入れる器具は、電気のパーコーレーターである。
 私も確かどこかにしまってあると思うが、多分、粉吹いている。