夢十夜。
 
 
 
「世の中が何となくざわつき始めた。今にも戦争が起りそうに見える。
 焼け出された裸馬が、夜昼となく、屋敷の周囲を暴れ廻ると、それを夜昼となく足軽共が犇きながら追かけているような心持がする。それでいて家のうちは森として静かである」
 
 
 
■ 漱石の「夢十夜」の中の一節である。
 大逆事件はその暫く後。
 漱石の半ば病んだかのような感覚は、迫り来る豚の群れの時代を予感していた。