砂の岬 2.
 
 
 
■ 63年の「拝啓天皇陛下様」という映画を見たことのある緑坂読者はいるだろうか。
 反戦映画かと思っているとそうでもなく、もっと含みのある作品である。
 ラスト近く、渥美清さん演ずる主人公は、荒川の土手近くに並ぶ屋台で泥酔する。戸田橋の辺りである。
 あそこは確か桜並木が続いているところなのだが、映画では大型トラックが絶え間なく行き来していた。夜でもである。東京はオリンピックに向け未曾有の建築ラッシュだった。
 せっかく性格のいい相方をみつけ、所帯を持とうと喜んでいた主人公はそこで亡くなる。喜劇というのは本質的に涙を含んでいるものだが、そのセオリー通りの結末だった。
 
 
 
■ そんなことを思い出していたのは、件の「男はつらいよ」シリーズの第1作目が69年からだったからである。前にTVでのシリーズはあるものの、69年というのは随分と遅かったんだなというのが率直なところ。
 1作目の寅さんはちょっと荒っぽく、結構な毒の匂いを放っていた。