池辺良の色気 3.
 
 
 
■ 映画の中では一台の車が結構な脇役として登場している。
 リアにエンジンがある小型のカブリオレで、多分ルノー・カラベルのコンパーチブル辺りではなかろうか。前期か後期かと問われると心もとない。
 出来たばかりの高速というかバイパスで、英国製のMG辺りとバトルする場面があって、加賀まりこさん演じるところのお譲さん博打うちが無暗にアクセルを踏む。
 カラベルって140辺りが上限だ。
 リアエンジンだから、カーブでは一定のところで大体ブレークする。
 隣に座る池辺さんは、ちょっと待てよという横顔をしながら耐えている。
 
 
 
■ 当時、フランソワーズ・サガンという作家がほぼ全盛期だった。
 世界的に売れた小説の印税でスポーツカーを買い、それもXKのジャガーとかアストンのDB4とかゴルディーニのとんでもない奴とかなのだが、それを飛ばし大事故を起こしたりしていた。のちにコカインの中毒にもなる。
 このサガンという人も、どこか戦後を象徴するかのようで気になるのだけれども、ブラームスはお好きだろうか。
 
 
 
■「乾いた花」という映画にはそうした時代の気配も漂っていた。
 もちろん影響もあるだろう。実存とか。
 スピードとスリルとセックス。という三大要素を一定の部分で満たしながら映画の主題はそんなところにはなく、どちらかといえば後に残るのは虚無感である。