東京の印象。
 
 
 
■「言問いにて
向島の桜は今が真っ盛り、お花見の人々が、地煙を立てながら歩いている。
コバルトを流したような、隅田川の上の方からは‥‥
だんごやの小娘がしきりに客を呼んでいる」
(本間國男著:「東京の印象」現代教養文庫版:30頁)
 
 
 
■ 緑坂の古い読者ならご存知、本間國男さんの「東京の印象」からの抜粋である。
 
「やがて春の日が眠ったように、とっぷりと暮れた。
ニコライ堂の鐘撞き男が撞く祈祷の鐘が、静かな春の宵の空気を破って響いてくる‥‥
深い谷間からは、赤いカンテラが蠢いて、幽かな幽かな艪(ろ)の音が、悲しいように聞えてくる」
(前掲:40頁)