ここはそういう土地柄なんだ。
 
 
 
■ バーテンがスタンドの灯りを強くしてくれた。
 ご多分にもれず老眼なので、夜の細かな字はつらい。
 いつもどのへんで飲まれているんですか。
 今日はどちらから。
 曖昧に答えたりそうでなかったり、その店はシングル・モルトの本数が少なかった。
 生とされているチョコは僅かに乾いていて、その値段なら文句も言えない。
 行徳にある実家で、女房が宝石の鑑定をしているという男の声が大きかった。
 たいしたもんだね、と連れが相槌を打っている。 
 
 
 
■ チャンドラー短編集の4.
 その末尾には、訳者の稲葉明雄さんが「フィリップ・マーロウ誕生の前夜」という極めてコクのある一文を載せられている。マニアというか、その手のものが好きな諸兄なら、忘れた頃に再読すべき代物だろう。
 久しぶりにそれを読み返して、私は少し困った。
 うんざりした気分も幾分かは混じっている。
 
 
 
■ 地元の粋な勤め人が、週末近くに相方を連れ、カクテルかヤマザキを嗜むところだった。
 近くにホテルあるの。
 私はバーテンに聞く。
 満員ですよ。
 彼はいう。