パンナムビル。 
 
 
 
■ 映画の話である。
 ロイ・シャイダーの主演で「ザ・セブン・アップス」というものがある。1974年。
 これが結構マニア受けする作品なのだが、冒頭、NYグランド・セントラル駅の場面から物語は始まる。
 背後にはまだパンナムのロゴの入った高層ビルが見える。
 パンナムビルはその後メットライフビルと名称を変え、そのロゴも変更されたが、佇まいは同じだった。60年代を象徴するモダニズム建築である。
 緑坂 5437
https://www.kitazawa-office.com/NyPhoto/view/Nyphoto47m.html
 このカットですね。 
 
 
 
■ シャイダーは踵の高い靴を履き、やや裾の広がったパンツを履いている。
 70年代に流行った背広の形である。歩きにくそうなのだが、気にもしていない。
 映画の粗筋はともかく、この映画のもうひとつの主役は車だった。
 マンハッタンで繰り広げられるカー・チェイスのシーンが中盤約9分ほど続き、好きな奴にはこたえられない。
 シャイダーがポンティアック・ベンチュラを駆る。
 ベンチュラはシボレー・ノバと同じモデルである。一般にノバと言えば、NYの女性秘書が乗るような車で実際そう速くもない。
 最もポピュラーなものは、確か直4辺りではなかっただろうか。
 ただ、5.7リッターV8を積んだモデルもあったとされるので、映画の方ではそちらだったのかも知れない。結構野太いエンジン音だったからである。後から音を被せている可能性もある。
 ベンチュラは、国産でいうとTE27のカローラ・レビンやトレノといったイメージだろう。小さなボディにでかいエンジンを載せるというのはチューニングの常套手段だが、映画の中で明らかに足回りは変更されていた。 
 
 
 
■ 犯人が乗るのが、ポンティアック・グランビル。
 こちらはフルサイズで結構馬力がある。今眺めると、ほとんど鉄の塊のような按配なのだが、70年代のアメ車というのはこの無駄な感じが捨てたものではなく、第二時大戦当時の戦闘機、サンダーボルトかコルセアを勝手に彷彿とさせる。それは私だけか。
 このスタントを演じたのが、1968年「ブリット」1973年「フレンチ・コネクション」を担当したビル・ヒックマン。
 ブリットで黒縁の眼鏡をかけ、マックィーンに追われていた殺し屋である。
 本作では髪が長くなり、渋みが減ったような気もするが、CGのない時代のカー・チェイスというのは、今の眼で眺めるとすこし鈍いところもあって、かつ重いのである。