振り返りてにこと笑いたり。
 
 
 
■ 柳田国男の「遠野物語」、その99に以下のような記述がある。
 
「土淵村の助役北川清という人の家は字(あざ)火石にあり。代々の山臥(やまぶし)にて祖父は正副院といい、学者にて著作多く、村のために尽くしたる人なり。清の弟に福二という人は海岸の田の浜へ婿にいきたるが、先年の大海嘯(つなみ)に遭いて妻と子を失い、生き残りたる二人の子とともに元の屋敷の地に小屋を掛けて一年ばかりありき」
(「遠野物語」柳田国男著:岩波文庫版:63頁)
 
 
 
■ これは、明治29年(1896)6月2日に起きた明治三陸大津波のことである。
 死者約21500名。津波の高さは各地で軒並み10メートルを超えた。
 ちなみに、遠野物語の初版本が明治43年(1910)6月14日発行。
 赤茶色の本で縦が237ミリ×ヨコ160ミリ、アンカット版である。
 表紙の中央に題名があり、背・裏表紙には何も記されていない。
 右に「350部のうち何号」と毛筆で記されていて、これは柳田の手によるものと推察されている。著者兼発行者は柳田本人であり、自刊であった。