白き路。
 
 
 
■ 大正12年9月、西条八十は数編の詩をものにしている。
(「新潮」大正12年10月号)
 
地震(ない)ふる夜半(よわ)のわびしさ
おのが身は一すぢ青き葦となりて
暗き夜の流れに泛(う)かぶ
灯もなく、ゆくへもわかず。
 
 
 
■ 隣には疲れたる妻と子と老婆が眠っている。
 夜はくらし、夜は深し。

うちふる地震の間(ひま)に
懐かしきものの陰をみたり、
そは蓬(ほう)けたる草の野をゆく
ひとすぢ白き路(みち)なりし。