小津の50.
 
 
 
■ 原田雄春さんのインタビューを蓮實重彦さんがまとめた本を読んでいた。
「小津安二郎物語」(1989:筑摩書房刊)である。
 原田さんは松竹での小津監督のキャメラ担当。「戸田家の兄弟」以来、コンビを組んでキャメラを廻した。
 活動屋ってのは基本的にヤクザなもので、その底には道化と反骨の気概があるのだが、そうしたことを伺わせるに足る、渋味溢れる一冊だった。
 
 
 
■「あいつはワーナー・ブラーザースだよ」
 その心は当時流行っていた映画「名犬リンチンチン」
 説明は不要、であるとか。
 「ワン・ナイン」という隠語が出てきてにやりとする。
 F1.9のレンズが出始めた頃で、絞り開放という女性相手の軽口である。
 ったくどうしようもないなあ、という世界のやりとりだが、撮影所の雰囲気というのは基本的にこんな感じだったのだろう。
 
 
 
 
■ 独特のローアングルでは、ほとんど広角を使わなかったという。
 50ミリだと。
 広角特有の歪みが出る事を嫌ったからだが、成程と思わせる逸話だった。
 晩年、松竹と一年一作の契約を結んでからは、ほぼ一月以上をロケハンに歩くと。大体が真夏で、皆汗だくになる。
 その写真を見ると、小津監督だけがカラーの大きな白いシャツを着ている。
 顔の大きな小津監督は、そうしたシャツだけを好んで作らせていた。