犬の目 6.
 
 
 
■ かつて吉行さんに「ホステスを別の世界の人間だと思わないこと」という名言があった。酒場でモテルにはドウシタラヨカローという切実な問いに対してである。

 
 
 
■ 吉行さんのそれは、トーマス・マン以来の古典的芸術論、いわゆる市民社会が確固として存在する世界の中での表現者の立場である。
 分かりやすく言えば、なにがしかの欠落を自覚せざるを得なかった人間が、いたしかたなく表現の立場に追い込まれてくるという構造である。
 つまりは不良であると。
 あるいは多感すぎてもいけない。