■ 真壁の資料には「アヘン戦争」については省略する、と書かれている。
 植民地政策の一環として英国が東インド会社につくらせたアヘンが清朝を滅ぼすきっかけになったのだ。同じようなこと、ある意味では遥かに悪質なことを戦中の日本も行っていたのだから触れないことにしたのだろう。役人の発想だ。
 
 一般に麻薬というのは法律で禁じられたものを指す。
 アルコールや各種薬物、つまり向精神薬などの場合には中毒とは呼ばず、依存、または依存症と呼ばれることが多い。
 麻薬中毒とは、アヘン・ヘロイン、コカイン、大麻(マリファナ・ハシッシュ)、さらに覚醒剤による中毒に大別されている。
 私が読み終えた資料を葉子は手にとって眺めている。
 いわゆる覚醒剤というのは、いくつかの種類の覚醒アミンを指す。
 日本での主流はメサンフェタミンと呼ばれるもので、市販の咳止めなどに含まれているエフェドリンとよく似た分子構造を持っていた。
 エフェドリンは日本人の長井長生が麻王から抽出に成功したものとして有名である。
 これはヒロポンとして日本人には馴染みの深いものであった。戦中には、軍の指導で大量に製造され、半ば強制的に使われていた。眠気の防止、士気高揚、疲労感排除などが目的である。「猫の目錠」「突撃錠」などの名で呼ばれていたという。
 いわゆる特別攻撃隊の隊員は、この錠剤を噛みながら異常に昂進した精神状態で「万歳」を叫んで死んだのである。
 
 戦争と麻薬というのは切ってもきれないものだ。アフガンでは多くの旧ソ連兵士が大麻樹脂の中毒になったという。
 メサンフェタミンは粉末で、もしくは錠剤で供給される。重曹やカフェイン、アンナカ、ナフタリンなどと混ぜられ、シャブ、アキアジ、ガンコロ、スピードなどと呼ばれ密売される。不純物の配合の仕方によって効き目が変わってくると言われている。