■ 金は走羽が払った。
「日本人だと料金が高くなります」
 外に出ると、いつ呼んだのか、髪の短い男が車を廻していた。
「下町にいってみましょう」
 走羽はそういってアウディの後部座席に入り込む。私も続いた。
 外灘に沿った道を下り、中山東二路に入る。渋滞はあるがそれでも流れている。
 
 街の風景が次第に低くなった。右手に折れ、文化電影院と書かれた看板の前に車が停まった。映画館のようだ。古い日活映画でもやっていないかと思ったが違っていた。看板にある女優は、こわい顔でこちらを睨んでいる。美人だ。
 通りは師走の買い出しのように混雑している。
「この先に自由市場があります」
 走羽はそういって人波を肩で泳いでゆく。チケットを求め、豫園と呼ばれる中国式庭園の中に入ってゆく。
 四隅がピンと跳ね上がった屋根の建築がいくつもある。鈍い赤色と金、緑が組み合わされた、いわゆる中国式の楼や堂が庭の中に点在している。しだれ柳が綺麗だった。
 九回直角に曲がっているというコンクリート製の橋が水の上にかかっている。沢山の人たちがその上を歩いている。小さな子どもの姿が目立つ。着飾って髪の両方に花飾りをつけた少女がいた。男の子が走って転んだ。
 私と走羽は橋を歩いた。
 中ほどに湖心亭という建物がある。中に入り窓の傍に座った。飲茶や食事ができるようになっている。休日ではないが、大勢のひとたちが笑ったり食べたりしていた。