■ 吉川は駐車場の中にある詰め所のようなところで眠った。
 昨夜は遅くまで走羽とその配下を相手に、武器の使い方について議論をしていたという。様子を伺いに葉子が降りると、走羽が苦笑しながら帰るところだった。髪の短い若い男が残った。彼はその後下見にでかけた。
 浴室を出ると頭が痛かった。葉子に生理痛の薬をもらい、胃薬とともに飲んだ。ビルの二階にあるカフェで吉川と会うことにする。
 このビルには守衛が常駐していない。昼間はパートタイムの守衛がいるけれども、十二時を過ぎると無人になる。代わりに各種センサーが動作し、必要があれば各通路を遮断することになっている。文革後、中国都市部では官民ともに腐敗が急速に進んだ。守衛を完全に信用することはなくなっているのだろう。
 テナントには日本からの資本も含め各種企業が入っている。だが、三分の一程度が空いたままになっていた。巨大なビルの割にがらんとした印象があるのはそのためだった。
「ろくでもない武器ばかりだな」
 吉川が先にきていた。彼はトマトジュースを飲んでいる。
 
「都市ゲリラ教本のことをあいつは知らねえんだ」
 走羽のことを言っているのだろう。
 まだ頭が痛かった。吉川の話を適当に聞いていると葉子が店に入ってきた。