四六 余所者
 
 
 
 
■ 周波数を定め、小型無線機を真壁に渡した。明日の夜再び落ち合うことにする。日本にいる真壁の上司、私に電話でだけ連絡を取ってきた初老の男に報告をしておくよう私は言った。これから何が起こるのか、真壁自身も不安なのだろう。指で眼鏡をしきりに直している。私だってわからない。
 駐車場にいる葉子に頼み、酒を持ってきてもらった。
 私は走羽にグラスを勧めた。ブラインドをすこし開け、空がみえるようにした。
「何をはじめようっていうんだろうな」
「さあ、小さな革命じゃないですか」
 葉子は氷を用意すると、そっと事務所を出ていった。
 私たちは酒を飲んだ。ディスプレイからの光で走羽の顔が青白くみえる。
 
「紅衛兵ってのは志願するものなのかい」
 私は走羽に尋ねてみた。
「ええ、自ら進んで腕章をつけるのです。わたしは十三の時に紅衛兵になりました。〈紅小兵〉という小学生の組織があったのです」
 走羽が話し始めた。
「文革の最後の頃はひどいものでした。わたしは国境近くの農村に下放されます。軍にも入らされました」
 走羽は古いボルト・アクションのライフルを撃つ真似をした。そこで銃器に触れたということなのだろう。
「文革小組の裁判の後は各地を転々とします。ろくに学校にもゆけませんでしたからね。ひとつのところに居着くことができないのです」