■ 私はこのふたりが随分詳しく知っていることに気付いた。
 いぶかしい気分をどうあらわすか考えていると、背の高い婦警が私に近づいてきた。奥の部屋に入れと私を促す。私は吉川と晃子の顔を一瞬眺め、戸惑いながら婦警に従うことにした。
 部屋にはスチールの机があり、古い端末が一台乗っている。端末に電源が入っていて、どこかに繋がっているらしい。画面には緑色のプロンプトが出ている。その脇にビジネス・ホンがあって保留のランプが点滅していた。
「二番です」
 婦警はそう言ってドアを閉めた。私はそっと受話器を取り上げた。
「突然で失礼ですが」
 私の名が呼ばれた。初老の男の声だ。
「わたしは麻薬に関係する所轄官庁の者です。今は名乗れません。唐突ですが、あなたに協力して貰いたい」
 低いが、意志のある声が聞こえる。頭だけで渡ってきたキャリアには出せない種類の声だ。キャリアと付き合いがある訳でもないのだが、そう思えた。何度か修羅場をくぐった者だけが持つ不思議な迫力が声にはあった。
 私は黙っていた。男は続ける。
 
「昨年の横浜港での事件はほんの一端だったんです。今も中国や香港から、大量の覚醒剤や大麻が日本に流れてきています。それに伴い、多くの武器も持ち込まれています。拳銃だけではない。今回奥山狙撃に使われたライフルはスナイパーが使う特殊なものでした。プラスチック爆弾は主に米軍が使っているものです。多国籍なんですね」
「それがどうしたっていうんですか」
 私は男に尋ねた。
「どうもしません。この一年の間に日本はとっても物騒な国になった。様々なツケが廻ってきたんでしょう」
「警察は何をしているんですかね」
 
「皮肉はともかく、あなたは彼の顔を間近でみている」
「え」
「北沢と呼ばれる男ですよ。彼の顔を知っているのはあなたと葉子さんだけだ」