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列島いにしえ探訪 Poster Top
白髭神社
青瓶 2473

「列島いにしえ探訪」
- 白髭 -



■ 近江国、琵琶湖湖畔。春のある日。
 という設定で始まる能の謡曲がある。
脇能物、異神物、作者不明、曲舞は観阿弥。
「白鬚」または「白髭」とも書く。
 中入までの梗概は、こんな風になっている。

 帝に霊夢があり、白髭神社に勅使が立つ。打ち寄せる波も白い白髭の宮につくと、釣りをする翁と若者に会う。翁は白髭明神の縁起を語り始める。
 釈迦が都率天に住していた頃、仏法流布の地を求めて娑婆を飛行し、琵琶湖辺りに着目した。入滅後、身を変えてこの地に渡り、釣り糸を垂れていた白髭の翁に対し、仏法結界の地としてこの地を与えよと告げるが、翁は釣りをする場がなくなると断る。
「ただし此地、結界となるならば、釣する所失せぬべし、と深く惜しみ申せば、釈尊力なく、今は寂光土に、帰覧(かえらん)とし給えば」
 そのとき薬師如来があらわれ、この山で仏法を開くべし、我仏法を守らんと誓う。「二仏、東西に去り給う、其時の翁も、今の白髭の神とかや」
「夕の雲も立ち騒ぎ、みぎはに落ちくる風の音、老いの波も寄りくる、釣りの翁と見えつるが、我白髭の神ぞとて、玉の扉を押し開き、社壇に入らせ給ひけり」

 身を変えていてすぐに分からなかったとしても、釈迦の申し入れを一旦は断る翁の姿が面白い。春霞の湖上風景が、その前段で長く称えられているのであるから、翁の気持も分からないでもない。
 そこへ、釈迦を助ける薬師如来が訪れ、翁を説得する。時は末世である。
 釣りをしている漁翁は、笑尉(わらいじょう)の面をつけている。この面は、笑いが賤しいものとされていたこの時代、やや格の低い漁翁、山樵などの働く老人役に用いられた。智恵のある、人間的な表情を持つ面である(「能のおもて」森田拾史郎/編著:芳賀芸術叢書:1976年)。
 薬師如来に説得された翁は、今は白鬚の神となっている。



2002_01_28
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