月。
 
 
 
■ 彼は十分に背伸びをしていた。
 あなどられまいと、わざと横柄な言葉を使った。
 加速する。
 車線を変え、すばやい動作でハンドルを切る。
 
 
 
■ 横顔が若かった。
 肌の張りが、自分のとは違っていた。
 夢のようだけれど、それでいいのだと思っていた。
 
 
 
■ わたしは自分が女であるということが好きではない。
 白くて柔らかな脚を昼間見ると、そこには薄く血管が浮いている。
 そのようなものがあるのだということが、納得がゆかない。
 世界の中で、それを支えているものがあったとして、自らの腹の中の月に確信を持つことがわたしには出来ない。
 
 
○昔坂 93年 vol 425